パウダールーム付きトイレ車導入プロジェクト

トイレ改革の始まり

今井(2005年入社)

本社技術担当の今井(2005年入社)は、今でもそのシーンを鮮明に覚えている。2009年初めのころのことである。役員と他愛もない話をしているうち、役員のほうから「最近他社さんが豪華なトイレ付き車両を試しに導入したそうだけど、ちょっとうちでも検討してみてよ」。京王バスの本社は人数が80名程度と少ないこともあって、意思決定が早い。ときに雑談の中で出たことや、ふとした思い付きがそのままアイデアとなり、実行に移されることも多い。 「ひょっとしたらこれ、バス業界の常識を変えることになるかも・・・」今井は、そんな期待感を持ちながら、「任せられたからには、とにかく一所懸命やってみよう」。ここに京王バスのトイレ改革が始まったのであった。

「当時、観光バスでは、それぞれのバス会社でお客様獲得のための差別化もあり、豪華仕様のバス導入例がいくつもあったんです。例えば、床面を木目調にすることや蛍光灯をシャンデリア風にすることですね。さらにはサロンカーのように最後部座席数列を向かい合わせにできる仕様などです。その中に、豪華トイレもあるにはあったんですけど、サンプル数が非常に少なかったんです。」導入事例があるものの、その数の少なさに愕然とした今井。

「でも、これで商機、チャンスがあるとも思いました。女性ってどうしても高速バスにトイレがあるかどうかが気になるんです。早速お客様にアンケートを取ったのですが、『トイレがついていて安心した』とか、『行く行かないは別として、トイレありのバスしか選びません。』とか、『トイレが狭い、汚い』というものが多かったんです。これからの時代、高速バスでトイレ付き車両は当たり前になる。その中でお客様に選んでもらうには、もう一歩踏み込んだトイレにしないとニーズにこたえられない。まだ導入実績がほとんどない中で、女性目線でトイレを大きくして、パウダールーム化してしまえば、トイレの不自由さで高速バスを敬遠している新たな顧客の獲得ができるんじゃないかと。いろいろ調査していくうちに、自信が出てきました。」もう自分でやるしかない。そう感じた今井は、「バスメーカーさんに直談判しました(笑)」

車両へのこだわり

第1次ワンロマ車 「ふそうMP118M型」(1980年)

仕事風景

車両にこだわる京王バス。実はこの伝統、今に始まったものではない。例えば、ワンマンロマンスの略であるワンロマ。京王バスでの社内用語がそのまま業界用語となった「ワンロマ」車両は、路線バスを運行しながら、高速バスにも投入できる1台2役の画期的車両であり、中央高速道路の開通、延伸とともにその名をバス業界に轟かせた。京王バスでは現在、4代目のワンロマが活躍中で、日中は調布営業所管内の路線バスとして運行し、夜中になると渋谷駅から吉祥寺駅や府中駅を結ぶ深夜急行バスに変身する運用を行っている。まさに眠ることのない車両である。また、1996年にバスメーカーと共同開発した小型バスも京王仕様と呼ばれた車両である。さらに、少子高齢化を見据え、今では当たり前となった路線バスのバリアフリー対応率100%も京王バスがいち早く成し遂げたし、そのうち特殊車両を除くほとんどの車両が段差のないノンステップバスとなっている。 この伝統を受け継いだ施策が「豪華トイレ」へと繋がったわけだ。

とにかく汗をかくこと。努力は報われる

仕事風景

パウダールーム付きトイレ車両の検討が本格化し、2009年春、今井も急ピッチで調整に動くこととなる。「特に苦労したのは、メーカーさんとの打合せでした。本格的に高速バスへパウダールーム付きトイレを導入するのは初めてでしたし、メーカーもノウハウがほとんどない。メーカーさんには相当苦労かけたと思いますが、まさにみんな手探り状態でした。コンサル会社の協力を得て、図面や調度品の選定を行っても、ショッピングセンターのトイレを作るのとは基準が違いますから。洗面台など、サンプルを見ていいなと思って、図面を書いても、重量基準に引っかかったり、壁のクロスでも難燃性の基準に引っかかったりと、当初は思うように行きませんでした。」今井は、打合せを重ねつつ、道路交通法や厳しい保安基準に適合する調度品を選定し、さらに今井ならではの女性目線で、お客様の求めているもの、こんなのあったらいいなを実現するため、いろいろなトイレを見て回ったとのこと。

「まずは、都内の百貨店、ホテルのトイレを片っ端から見て回りました。普段何気なく利用しているのに、自分がトイレを作ることとなると、色合いやトイレの種類、レイアウトまですごく気になるようになりまして・・・。休みの日はトイレめぐりが日課となってしまいました(笑)。でも、より豪華に見えるためには、暖色や赤系の色がいいこともわかりましたし、体の不自由な方が利用しやすいためには手すりをどこにつければいいかなども、たくさんのトイレを見たことで知識がついていきました。汗をかかないとだめだなと実感しました。」こうして、今井の努力が実を結び、たった3ヶ月間という短い期間の検討を経て、無事正式発注となったのである。

負けたくない気持ちが人を成長させる

パウダールーム

いよいよ納車時期が近づき、今井はメーカーの工場に何度も足を運びつつ、最終調整を行っていった。「納車された日は本当にうれしかったです。まぁ、どの車両もわが子のようにかわいいですけど(笑)。自分で思い描いたものが形になり、そしてお客様に便利だと思ってもらって、喜んでもらえる。これこそが仕事の醍醐味だと思うんです。バス会社は、エンドユーザーであるお客様との距離感がダイレクトなんです。厳しいご意見も頂戴することもありますが、これは期待の裏返し。常にお客様が求めているものを追求していきたいですし、そのお客様にお褒めの言葉をいただく時が、やりがいを感じる瞬間でもありますね。先日、私用で当社のパウダールーム付き高速バスに乗っていたんですが、トイレに行ったお客様が驚いて、『すごいトイレだ。見ておいで!』と一緒にいたお客様に目を輝かせながら伝えているのを見ました。誇らしい仕事です。」

今井は続ける。「車両に関しては、どの高速バス会社にも絶対負けたくありません。今回のパウダールームも自分では95点ぐらいですかね。大理石なども使いたかったのですが、どうしても保安基準に適合せず、泣く泣く代替品に変更しましたから。これからも新たな視点を持って、お客様に喜んでもらえる車両作りを心がけていきたいですし、チャレンジし続けていきたいです。京王バスは、若いうちからチャンスを与えてもらえる会社なので、仕事を通じて成長できることを実感できると思います。」

 
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