モットクパス(金額式IC定期券)開発・導入プロジェクト

利便性の高いIC定期券の開発で、バス定期券に革命を起こす

定期券の概念を覆す

モットクパス

まずは、営業企画担当の五味(2007年入社)に金額式IC定期券、モットクパスについて語ってもらうこととする。「定期券って、どんなイメージですか?“府中駅~新宿駅”のような区間を指定したものですよね。ですから、金額が同じでも区間が違っていると運賃を払わなければいけませんよね。でも、モットクパスは、運賃を支払わなくていいんです!それともうひとつ。普通の定期券は、区間を乗り越すと初乗り運賃を払わないとだめですよね。モットクパスは差額だけ払えばいいんです!距離に応じて異なる運賃を採用しているバス事業者で、大々的に『金額式』と『差額精算』の定期券を実施したのは、京王バスが初めての取り組みでした。これって業界内でも画期的なことで、導入時は大きな話題になって、お客さまからの問い合わせもすごくたくさんあったんですよ。」

バスをもっと身近に

「京王バスの定期券も、以前は区間を指定するものが主流でした。(注:都区内均一区間は異なる)会社の目線からすると、指定された区間以外にご乗車した場合には別途運賃を支払っていただきますというのは当たり前の感覚なのですが、お客さまからすると同じ金額なのだから乗れたっていいじゃないかという感覚ってすごくあって、以前からそういった要望が結構あったのです。この違いは専門的な言葉で言うと区間を指定した『区間式』と金額を指定した『金額式』の違いなのですが、一言で言うとモットクパスというのはこの『金額式』の定期券なのです。詳しくはHPにも記載があるのでそちらを参照してもらえばより理解が深まるかと思いますが、例えば家の最寄バス停から駅まで200円だとすると、200円用のモットクパスを購入して頂きます。別の駅から大学の最寄バス停までが200円以内だと同じモットクパスで使用することができるんです。また、学校帰りにアルバイトに行くときに220円のバスに乗るとしますよね。この場合、差額の20円だけお支払頂ければいいのです。」(五味)

そうなると、会社としての一番の心配事は、単純に収入が減ってしまうことではないだろうか?五味さん、いかがですか?

「はい。今まで支払って頂いた運賃が頂けなくなると会社にとって損ではないのか?普通そう思いますよね。バスで定期券を区間式から金額式に変更すると、お客さまには便利になる反面、単純に考えれば減収になることが予想されますよね。収支予測をすることは企業の政策判断上当然重要なことなので、導入前に、いろいろ検討・シミュレーションをしました。でも、モットクパスの真の狙いは別のところにあって、お客さまに気軽にお手軽に京王バスを利用していただくことで、バスという乗り物をもっと身近に感じていただき、その便利さをもっと実感して欲しい、そしてそれを家族や友人にも広めてもらうことでバスに乗る機会をさらに増やしてもらおうという思いで、導入することが決定しました。しかしながら、導入までには本当に言葉では表現できないほどの苦労の連続でしたし、それをみんなでひとつひとつ解決して完成した定期券だと思っています。」・・・・・・・なるほど。それでは、その開発・導入のプロセスをご紹介しよう。

不安と期待の中で

仕事風景

2007年3月。PASMOがサービスを開始した。1枚で鉄道やバスのきっぷとしてご利用いただけるほか、PASMO電子マネー加盟店では電子マネーとしてお買い物のお支払いにもご利用いただける便利なカードで、発行枚数は毎日どんどん増えていった。PASMOのIC定期券については、当時から磁気式の定期券に替わるものとして期待されており、京王バスにおいても積極的に導入を検討することとなった。

2008年初頭、京王バスの本社内では、営業企画担当の五味が主体となって定期券導入シミュレーションに没頭していた。

五味が振り返る。「PASMOは鉄道乗車券機能が基礎となっているICカードであるため、バス独自の『区間式定期券』の実現は大変困難なものでした。また、京王バスの場合、都区内は均一運賃方式ですが、多摩地区では距離によって運賃が異なる対キロ運賃方式であり、両方式あるので、さぁどうしようと(笑)。多摩地区でも区間式ではなく金額式にしたらいいのでは?という意見の一方、減収予測など否定的な意見もあり、社内で導入するかの結論が出ないでいました。」

さらに付け加える。「検討すればするほど、減収要素はいろいろ出てきまして・・・最初は不安の方が多かったですね。同業他社の会合でも、否定的な意見の方も少なくなくて・・・。でも、絶対お客さまにとっては便利になる定期券だし、きっと新規のお客さまや新たに定期を買ってもらえる人が増えると信じて、どうにかして導入したいと説得に奔走しました。」

当時京王バスがシミュレーションしていた減収要素をまとめてみると、大きくは次の3つだ。 ひとつめは、2つ以上の場所・エリアで京王バスにご乗車いただいていたお客さまが1枚の定期券で乗れるようになることだ。

ふたつめは、お客さまが最低金額の定期券を購入し、途中バス停で乗り降りを繰り返せば、目的地までの金額式定期券を購入せずとも目的地まで行けてしまうことだ。乗り降りを繰り返すほど、時間に余裕のあるお客さまは少数かも知れないが、減収になるのは確実。これをどう防ぐのか?という課題である。

三つめは、乗り越し精算の問題である。一般的な区間式乗車券では、乗り越しする場合、乗り越し分はもう一度最初から運賃の計算をする。しかし、一般的な金額式乗車券(例えば回数券など)は、乗り越しは差額精算だ。210円の券を持っていて、220円区間に乗り越し乗車した場合、差額の10円を支払えば済むということになる。定期券で金額式を運用している事業者がないので、認可申請が通るかどうかの課題もあるし、システムが現状で対応していないことも解決しなければならない課題であった。 ではこれらの問題をどう解決したのか?

「細かい金額などは言えませんが、通常のSF利用(チャージ分から運賃を支払うこと)から定期券に乗り換えてもらえるお客さまが年間何万人増えて、今までバスをご利用しなかった新規のお客さまが年間何万人増えて・・・と数字をはじくと、減収をカバーできちゃったんです(笑)。 でも、当初誰も信じてくれない(笑)。何度も数字を出して、説得資料を作成して・・・。2009年だったと思いますが、『やってみるか』と役員の最終OKをもらったときは本当に心強かったですね。今でもあの時の光景を鮮明に覚えています。」

こうして、会社として導入が決定し、前へ突き進むこととなる。

「システムの改修もいろいろありまして・・・。導入に際して問題となるプログラムは、2年がかりで改修しました。毎日トライアンドエラーの連続でした。機械ものですから、自分たちがこう動くだろうと想定しても、イレギュラーなパターンが突如現れたりして、夏の暑いときも冬の寒い時も、1日中外のバスの運賃機の前で格闘していました。また、当社内だけでなく、関係するメーカーや業界団体、同業他社の皆さまのたくさんに協力してもらって本当に助かりましたし、その時のことは一生忘れません。」

こうして2011年2月、日本初の金額式IC定期券「モットクパス」ができあがり、無事にサービス開始することができたのである。

中長期的な戦略でバス事業の将来を描く

五味は言う。「モットクパスは、バスに乗ってもらうきっかけづくりです。具体的には、日頃から京王バスをご利用いただいているお客さまには将来に亘って京王バスをご利用していただけるようにし、現在ほとんど京王バスをご利用いただいていないお客さまへはバスを利用しやすい環境をつくることでバスに乗っていただく機会を増やそうということです。こうした営業努力を行うことでお客さまの数を増やし、中長期的な視点で減収分を補っていこうという当社の戦略です。モットクパスの販売初日、売り場で案内をしていたんですが、たくさんのお客さまが買いに来てくださって、購入待ちの長い列ができたんです。本当にうれしかったですね。」

「少子高齢化と言われて久しいですが、みんなの努力もあってバスの輸送人員は増えています。また、少子高齢化社会だからこそ、バス事業のニーズは高まることもあるはずで、今後はそういう潜在需要をいかに掘り起こすかがカギだと思います。お客さまの求めているものを追求し続け、それにこたえ続けることで、京王沿線の価値を高め、住んでよかった・利用してよかったと思ってもらえれば一番いいですね。」

2011年のサービス開始後、順調にモットクパス発行枚数が伸び続け、定期券収入は当初予想を大幅に上回ったことが、五味の自信に繋がっているのだろう。彼のチャレンジはこれからも続く。

 
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